私たちが1日の大半の時間を過ごすオフィス。働き方や仕事のあり方が大きく見直される中、オフィス環境も、働く人たちの多様なニーズに合わせて、アップデートしていくことが求められているのではないでしょうか。

第9回目の「越境リーダーシップMeet up LIVE!」*では、1912年創業のオフィス関連の総合商社 株式会社文祥堂で、働く”人”を中心とした「成果につながるオフィスづくり」を実践する山川知則さんをお招きし、これからのオフィスのあり方についてお話いただきました。
お話のあとは、山川さんが実際のオフィスづくりワークショップで使っている「自社で起こってほしい行動」と「ピックアップした行動を促すためのオフィス環境」が書かれたカードを使い、参加者一人ひとりが自分の「はたらく」について考える時間に。

働く当事者たちが、望む成果・行動のビジョンを描きながら、仕事のあり方、働くスタイル、職場のカルチャーを、デザイナーと共にデザインし直す。その過程で、個人の意識の変容や、組織の変容が促される。山川さんの取り組みには、オフィスづくりからはじまる価値創造の可能性について、様々なヒントがありました。印象的だったお話をご紹介します。
*「越境リーダーシップ Meet up LIVE!」とは、自らの想いを起点に境界を越境しながら価値創造に挑戦する「越境リーダー」を毎回一人招き、現在進行中の活動、これからの展望を伺い、実践者同士の創発につなげていくための取り組みです

「なにかが違う」。違和感から始まった、居心地の良い空間の追求

1912年創業のオフィス関連の総合商社の老舗で「働く場やオフィスを切り口に生き生きと働く人を増やす」というミッションを掲げて、”人”を中心にしたオフィスづくりを実践する山川さん。現在のオフィスづくりに至った背景には、「居心地の良さ」が置き去りにされた従来のオフィスづくりへの違和感と、それに対する数々のトライ&エラーがありました。

まず山川さんが注目したのは、素材です。一般的なオフィスでは、メンテナンスのしやすさやコストが重視されるため、味気ないスチールや木目が印刷されたフェイクの化粧板など、金属・石油製品が多く使われています。

「無機質な素材ばかりの空間に囲まれて仕事してるのも、なんだか心地良くないなーと思ったんですよね。」と山川さん。

そんな時、自社創業100周年記念事業の取り組みを通じて、創業者が植林を手伝っていた記録を知り、現地に赴きます。そこで、現在の日本の山林が抱える「間伐」の問題を知ることになり、地域の人や林業関係者が「間伐材の活用」を求めている、という話をききます。国産の本物の木を使ったオフィス空間は、五感が解放され心地良いに違いない、と考えた山川さんは、間伐材を使ったオフィス家具シリーズ 「KINOWA」の企画・開発をスタートさせました。

国際的なデザインアワードを受賞したり、大手企業で導入されたりコラボレーションが始まったりなど成果をあげたものの、次第に本質的なオフィスづくりのあり方に関心が向いていったと言います。

「居心地の良さを追求して素材にこだわってきましたが、オフィスづくりのあり方に疑問を持つようになりました。オフィスデザインとは、多くの場合、経営者からオフィスリニューアルを命じられた担当者が、デザイン会社に依頼をします。イメージや雰囲気に重点を置いたオーダーが多いです。個人の価値観にあわせて衣食住が自由に選べる時代に、働く環境も人に合わせて自由にデザインできないだろうか、と考えました。」

「起きて欲しい行動とコミュニケーション」を、働く人たち自身が考えるオフィスづくり

毎日過ごすオフィスがこうだったら、というのは誰もが考えることのある身近なテーマ。山川さんは、働く人たちの願いや想いを吸い上げ、成果につなげる社員参加型のオフィスづくりのワークショップを開発しました。

内容としては、まず、開発パートナーのNPO法人ミラツクとともに、成果をあげている企業を独自に調査してまとめた「成果行動カード」の中から「自社で起こって欲しい行動」をオフィスで働く人たちに選んでもらいます。なぜそのカードを選んだのか、社員どうしで対話を重ねた後、それらの行動を促すオフィス環境のアイデアを考えてもらい、それらアイデアを山川さんらプロが空間に落としこんでいく、という流れです。

「自社で起こってほしい行動」アイデアカード

「行動を促すためのオフィス環境」アイデアカード

例えば、ある企業では、
・アイデア出し
・外部との共創
・経営トップとのコミュニケーション
に関するカードが多く選ばれ、

それらの傾向を踏まえて、山川さんらは、外部の人を招くセミナーを自主開催できるようなレイアウトの変更が可能な設計を考え、トップとのコミュニケーションを促進するために社長室は設けず、社長席の横に掘りごたつのミーティングエリアを設けたそうです。

オフィスのレイアウト事例。

働く人たち自身が、対話をしながら起こしたい行動やコミュニケーションを定義し、それらを実現する環境をデザイナーとともに考える。山川さんはこうしたオフィスづくりのプロセスの可能性を、こう語ります。

「普段話すことがない社員同士で話す機会になったりと、社員のコミュニケーションが深まるのはもちろんですが、何より働く人たちの主体性がめばえ、意識が変わっていく。オフィスづくりのプロセスを通じて、自分のやっていることも何か意味がありそう、と実感してもらえるのかもしれません。」

最近は子ども向けのワークショップの経験を経て、より五感を使った創造的なオフィスづくりを意識されているという山川さん。

快適で便利なだけではなく、さらに創造的で、一人ひとりが最大限可能性を発揮できる空間づくりを目指して、山川さんはさらに挑戦を続けます。

ワークショップ体験談

お話のあとは、「自社で起こってほしい行動」と「ピックアップした行動を促すためのオフィス環境」が書かれたカードを使って、参加者のみなさんもワークショップを一部体験しました。普段の働き方や職場でのコミュニケーションについて、自分自身の考えを言語化したり、価値観を可視化できて面白い!という声が多くあがりました。一部をご紹介します。

「カードがあると、自分が考えていなかったことや、自然には選ばない選択肢も目に入るので、議論が生まれる。私は今、会社でイノベーション施設の企画を担当しているのですが、「そもそもイノベーションって何?」という議論があり….. このカードを使うことで、組織として何を求めているのか、何を軸にするのか、組織の垣根をこえて考えがまとまりそうで良いなと思いました。」

「私は自分の職場を想像したときに、同じフロアで働く社員同士であっても、全く違うものを選びそうだなと思いました。同じ環境で働いていても見ている世界や価値観は全然違うのに、それらを言葉にして話し合う機会があまりないので、こうして共通のビジョンを作る過程を通じて、より相互理解が深められるのは、とても意義があると思いました。」

「もともともやっと感じていたことが、カードがあることで、具体的にこうしたらいいなというアイデアに変わったのがよかったです。私の会社では、目先の一つの一つの業務に関するアイデアは積極的に出るのですが、オフィス環境がコミュニケーションや働き方に与える影響を考えることはなかったので、勉強になりました。」

「数多くあるカードの中で一枚だけ選ぶというのは、自分と向き合うとても良い機会だなと思いました。選んだ理由を深掘りしてみると、その行動を実現するにはどうしたらいいか、自分の想いをもっと言葉にして、周りに発信しなきゃと思うようになりました。」

筆者後記

働く環境づくりを通じて、チームの共通のビジョンを紡いでいく。ここ数年、激しくメンバーの増員やオフィスの改装を行ってきた私の会社では、まさにその価値を実感する場面が多々あります。
どういう席順にしたら最も創造的なコラボレーションが生まれるのか。人が増え、多様なニーズがある中で、それぞれが最大限のパフォーマンスを発揮するためにんはどんな環境や制度を作るべきか。働く環境を議論する過程で、チームとして何を目指すのか、何を大事にするのかが整理されてきた気がします。
この数年で、オフィスには窓が増え、映画観賞用の大スクリーンが導入され、外部の人とイベントを開催できるスペースが増えました。環境がアップグレードされると、こんな挑戦がしたい、こんな新しいことがやりたい、とチームで描くビジョンが大きくなり、その度に、自分ももっと成長しなきゃ!と必死になってもがく毎日です。

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