第4回「越境リーダーシップMeet up LIVE!」*は、日本生活協同組合連合会の越境リーダー、本木時久さんとパソナのソーシャルイノベーション部長の加藤遼さんをゲストに迎え開催。協同組合型経済の可能性について探求しました。本レポートでは印象的だったことを中心にご紹介いたします。

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「越境リーダーシップ Meet up LIVE!」とは、自らの想いを起点に境界を越境しながら価値創造に挑戦する「越境リーダー」を毎回一人招き、現在進行中の活動、これからの展望を伺い、実践者同士の創発につなげていくための取り組みです

生活者の自治を守るためにうまれた生活協同組合

「みなさん、生活協同組合のイメージってなんですか?」

「生活協同組合」というと、宅配システムや近所のスーパーのイメージが強いのではないでしょうか。そのルーツは古く、1844年に誕生したイギリスのロッチデール先駆者協同組合が最初です。労働者が食料や日用品を手にするのが難しい状況でみんなで仕入れ、分配する仕組みを作ったそうです。「協同組合」という仕組みが全世界に広がり、日本では大正時代に神戸で最初の協同組合が誕生しました。現在、様々な協同組合がありますが、「生活協同組合」(以下コープ)は、消費者一人ひとりがお金(出資金)を出し合い組合員となり、協同で運営・利用する組織です。

「協同組合は、世界最大のNGOとも言われています」と本木さんは続けます。協同組合には「正直、公開、社会的責任、そして他人への配慮という倫理的価値を信条とする」という原則があり、利益の追求ではなく、社会に貢献するというミッションのために活動を行なっているためです。協同組合は、株式会社ではなく「皆が出資し、利用し、運営する」という、まさに「相互扶助」のモデルで多岐にわたる活動を展開してきました。

コープに流れる自治と助け合いのDNA

現コープの原点であるコープこうべの成り立ちと発展の経緯を紹介しながら、鍵となった人物や時代の転機について話は展開しました。

協同組合の土台を作った賀川豊彦の精神は、コープに受け継がれてきた助け合いのDNAです。当時、貧しい人々の救済につとめていた賀川は「救貧、ではなく防貧」を唱え、一時的な救済ではなく、人々の力を合わせて根本的に貧乏のない社会をつくる必要があると訴えました。「一人では無力でも皆が主体となって、力をあわせて社会を変えていこう」という助け合いの精神は大きなムーブメントとなり、後の事業の苗床となっていったそうです。

大正時代、賀川から始まったこの協同組合運動の主体となったのは、当時は選挙権も持たなかった主婦たちでした。彼女たちは互いに学び、助け合いながら、自らや家族の生活を守るために活動を広げていきました。この運動は「台所からの革命」と呼ばれました。

一般にはあまり知られていませんが、コープは、こうした「社会をよくしたい」という志を持った人々のムーブメントとコミュニティの広がりによって始まり、その後も成長してきたそうです。

コープの発展と衰退 – 何が失われてしまったの?

コープはその後、時代の変化と人々のニーズにあわせて大きく発展していきました。70年代〜90年代の高度経済成長期には、企業による公害や食品偽装などの問題が多発する中、「安心安全」というポジションを確立。

さらに90年代のオイルショックをきっかけに、適正価格で購入できることから、組合員が爆発的に増加。その後も、宅配・移動店舗、子育て支援・福祉・保険・旅行・住宅 など、時代の変化と人びとのニーズにあわせ、事業は生活全般に拡大しました。一方で、社会全体として人々のつながりが希薄になり、課題が多様化するにつれて、コープの「自治的なコミュニティ」の側面も弱くなっていきます。

「もともとは弱い人たちが力を集めて自分たちの暮らしを良くしていくムーブメントだった生協は、時代を超えて、いつのまにか良心的な小売業に。そして、大正時代以降、社会には解決すべき課題がたくさん生まれていたのに、生協は相変わらず食に重きを置いていました。」

人びとの暮らしのニーズに合わせて変化してきたはずのコープは、いつの間にか社会と大きなずれが生じ、もはや必要とされない存在になっているのではないか。こうした課題感から、本木さんは「次代コープこうべづくり」という組織改革プロジェクトを先導します。

いま、コープのDNAを捉え直す

「次代コープこうべづくり」は、地域とくらしの課題解決に取り組むというコープのルーツを捉え直す、いわば原点回帰の試みでした。

当時『われわれ(コープ)がなぜ社会に存在するのか』を明確に意識して事業活動にあたっているとは思えない職員が多かった。逆にコープは元来の理念が崇高すぎて、それにあぐらをかいているように感じる部分もあった改めて、コープは『地域という小さい単位から、協同思想に基づくたすけあい社会の実現』という共通目標置き直し、職員一人ひとりの主体性や意識を高めていく必要がありました。」

プロジェクトでは職員同士の対話の場作りを端緒に、子どもの職場参観、SNSを活用した社内コミュニケーションの活発化、社会活動家を交えた地域住民との交流、NPOでの長期研修などを行い、本来のコープの土台である自治性を高めながら社会との接点を編み直していきました。

 

「そもそも生協ではたらくってどういうことだろう?」「自分は何ができるだろう」ということを職員一人ひとりが考える機会を増やし、挑戦を後押しすることで「何をしてもいいんだ」という環境を少しずつ作っていったそうです。

「なぜするか、を一人ひとりが自分で設定し、それが社会と照らし合わせたときにどうなのかを考えることが重要だった。」

自治と助け合いの精神を改めて掘り起こし、それらを土台にさまざまな社会課題の解決に貢献する事業を展開し始めたコープこうべ。今後も色々な活動や団体と連携しながら、賀川豊彦から受け継いだDNAを、今日の社会にどう活かしていけるか、対話を深め、新しい取り組みを増やしたいと本木さんは話しました。

「あい」の精神とシェアリングエコノミー

後半は地域でシェアリングエコノミーで地域の課題解決を推進する越境リーダーとの加藤さんも迎え、「シェアリングエコノミー」と「協同組合」の接点について対談を行いました。その一部をご紹介します。

(加藤さん) 活動する中で「人と何かをシェアする」「シェアからうまれる経済や社会ってどういうことなんだろう」ということをよく考えます。本木さんはAirbnbやUberなどのサービスと協同組合との共通点はなんだと思いますか?

(本木さん)コープが誕生した100年前と今日の時代背景は似ていると思います。大量生産・大量消費の時代から価値観が転換する時代の変わり目であるという点において、寄り合いの軸になる思想なのかなと。100年前に書かれた協同思想が違った形で行われているのがUberやAirbnbだという見方もできるのではないでしょうか。

(加藤さん)そうですね。元々は遊休資産を活用して様々な社会課題を解決する可能性を持つビジネスモデルとして注目されたAirbnbなども、現状の日本では不動産投資の手段として広がっている。この現状をどう思われますか?

(本木さん)助け合い・教え合い・譲り合い・支え合いなど、うしろに「あい」がつく考えをもっと広げる必要があると思います。経済的観点も大事です。コープも社会貢献をミッションに掲げながら市場経済の中で事業を成立させているところに価値があります。

(参加者)65歳以上が70%以上を占めている限界集落で自治体は、十分に行政サービスは提供できない、都市に移り住んだ方がいいと勧めますが、当事者たちは、移りたくない、という気持ちがある。さらに民間企業も、利益を生むのが難しいので、積極的に限界集落の課題に取り組むところが少ない。協同組合という仕組みを使えば、コミュニティの維持など何かが出来ることがあるのでは、と感じました。人口減少下の協同組合の可能性について教えてください。

(本木さん)まず前提として、町が縮減していずれなくなることも認めないと話が進まないと思っています。経済成長的思想からの脱却。それから与えられるだけじゃない、見返りを求めず、自分が何かを与えようという気持ちをどういう風に持つか、ということを考える上で協同組合の思想は有益だと思います。

(参加者)行政と住民の関係も、サービスを提供する人・受ける人という考えを変えていかなきゃいけない。受け身の住民が多いのでなかなか意識を高めるのは難しいと感じています。同じように、協同組合に参加しましょう、というところまで理解してもらうのはプロセスとして難しい気がしますが、いかがでしょうか。

(本木さん)面倒みればみるほど人は弱体化します。何をしてくれと周りに求めるのではなく、私はどうするのか、あなたはどうするのか、という問いを続ける。地域に限らず社会全体として要求民主主義じゃなくて自立型の民主主義に持っていく必要があると思います。

筆者後記

最近「自分の庭先から整える」ということばに出会い、とても気に入っています。世の中にたくさん課題はあるけれど、悲観するのではなく普段の暮らしからより良く改善していく。賀川豊彦の精神に通じるものがあります。お話をきいて、いま、賀川豊彦がここにいたら何をするだろう、どう思うんだろう、そういう視点を持つ人が増えるだけで、社会はもっと変わると強く感じました。
(TEXT/PHOTOGRAPH:寺井彩)

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