2018年7月23日(月)、「越境リーダーシップ Meet up LIVE!」の第一回を開催しました。
「越境リーダーシップ Meet up LIVE!」とは、自らの想いを起点に境界を越境しながら価値創造に挑戦する「越境リーダー」を毎回一人招き、現在進行中の活動、これからの展望を伺い、実践者同士の創発につなげていくための取り組みです。
第一回目のゲストは、「越境リーダーシップ」プログラム立ち上げ時の実践研究にて、事業創造の初期段階の行動の体系化を支援してくださった 慶応義塾大学SFC総合政策学部 教授 井庭崇さん。井庭さんは、「創造社会」(Creative Society)の実現を目指し、人間の創造実践を支えるパターン・ランゲージ(パターンランゲージ3.0)を提唱する世界的第一人者です。様々な領域で越境しながら挑戦する実践者40名を参加者に迎え、始まりました。
本レポートでは、前半の井庭さんの講演を中心に、参加者の意見・感想をご紹介します。
来たる「創造社会」を支える「パターン・ランゲージ」
講演は来たる「創造社会」の特徴と、ご専門である「パターン・ランゲージ」の解説から始まりました。
「物を消費をすることが豊かさの象徴だった時代から、情報機器の発達により、よりよい関係性が人生の豊かさを象徴しコミュニケーションが重視される時代になった。そしてこれからは、人々が自分たちで物や仕組みをつくることができる「創造社会」が到来し、一人一人が創造性を発揮する時代になる。」
「物のあり方ややり方が一元的な形では、立ち行かない時代になっていて、個々人が知恵を働かせて独自の物のあり方や仕組みを編み出す必要がある。そしてそのような『創造社会』を支えるのが『パターン・ランゲージ ※』だ。」
※「パターン・ランゲージ」とは、個々人の中にある、状況に応じた判断の成功の経験則を、抽象化して言語化したものです。成功の「秘訣」を形式化し、他者と共有可能にすることで、様々な実践の「質」を高めることができます。
「越境リーダーシップ」プロジェクトでも、パターン・ランゲージをツールとして、既存の枠組み、組織の境界を越えて活躍する企業に属する個人の実践知の共有を図ってきました。
※詳細はこちら
ビジネス・教育・社会福祉・人材育成・都市開発など、多様な領域でのパターン・ランゲージの実践例を紹介しながら、その汎用性と有効性の解説が続きます。
中には、パターン・ランゲージの方法から派生した、多様性を広げる「スタイル・ランゲージ」、未来のことを言語化する「フューチャー・ランゲージ」を実践する例もあり、「創造社会」に向けたパターン・ランゲージの可能性を感じられる内容でした。
「最近熱いこと」とこれから
後半は、最近の井庭さんの研究主題である「無我の創造」(egoless creation)についてです 。村上春樹や宮崎駿などの一流の芸術家を例に、創造的行為を行う際に「こうしよう」「こうしたい」という作為、自我を抜くことの重要性が紹介されました。
さらに、創造実践学の理論を使いながら「無我の創造」で表される創造的な活動を支えるのはパターン・ランゲージであるということ。また仏教の無我と考え方が通じるものがあると。
今年の8月からはポートランドでサバティカル(在外研究期間)に入られる井庭さん。これまでの実践的な「創造性」の研究から、より哲学的な視点も取り入れ、研究を深めていく予定だそうです。井庭さんは正に、絶えず実践と学びを繰り返しながら分野を越境していく、学会の「越境リーダー」でした。
越境タイム!ー「創造性の発揮」をめぐる対話
講演後は、参加者同士がグループに分かれ、交流を深めながら学びを共有しました。
井庭さんを囲って行われた質疑応答では、各参加者の多様な視点が織り交ざった「創造性」をめぐるやりとりが繰り広げられました。その一部をご紹介します。
Q.私も話している時に、ドライブがかかるようなことがあって、「無我の創造」を感覚的に理解できました。「無我の創造」とパターン・ランゲージの関係性をもう少し教えてください。
A.「無我の創造」でいう発見の連鎖は、必ずしもよいものを生むとは限りません。「質の良いもの」を生み出すには、これまでの成功の個々の知恵を集めたパターン・ランゲージが下支えになります。例えば素人がいろいろな方法を適当に試してみても必ずしも良い結果が生まれない。けれども、ある程度の経験則があれば良い結果を生む確率が高くなるというように。パターン・ランゲージは、質の高い成果(実践)を生むために、身を委ねるべき原理であり、言語なのです。
Q.企業内の創造性を高めるような活動をしていて、最近は教育現場でも取り組んでいます。昨年、中学生を対象にシナリオ制作のワークショップを行った際に、中学生たちが始めからオチありきで物語を考えてしまい、ユニークなアイデアがあまり見られませんでした。「無我の創造」と関連しますが、どうすればシステム的にクリエイティブを高めることができるのでしょうか?
A.教育現場にいると、生徒のアイデアが安易な方に行ってしまうことが多々あります。教える立場であっても「ジェネレーター」(生成的な参加者)として、プロジェクトに参加することが重要です。ジェネレーターというのは僕らが提案している新しい役割で、みんなを創造的にしながら、自らも創造実践を担う人のことです。教育の現場では、学生たちのプロジェクトに教員が一緒に取り組むことはあまりないと思いますが、ジェネレーター的な教員は、一緒にプロジェクトに取り組みます。そして、メンバーとして実際に手を動かして創造を進め、学生が自分でできるところよりも高いレベルに持っていけることを目の前で見せることで、自分たちが「このくらいだろう」と思っていたよりも高いレベルに行けるということを実感します。そういう経験が、次の創造のレベルを上げるのです。このように、創造の時代における教師の重要な役割は知識伝達でもファシリテーションでもなく、ジェネレーターになることなのです。
Q,自分で経験しながら発見していくことで、経験則の底上げになることもあると思う。むしろパターンを知れば知るほど行動力や新しい発見がなくなる可能性もある。パターン・ランゲージによって様々な領域への参入障壁が下がるのはいいが、未知のものが出てくる可能性は低くなりませんか?
A.まず、創造的であるということが、人と違うことであるという通念を疑うべきです。創造的であるということは、独自であることではありません。発見の連鎖が実現することが創造的であるということだからです。他の人と違うということは創造的であることの重要な要素ではありません。その前提の上で、パターン・ランゲージは、多くのうまくいっている事例に共通していることをパターンとして捉えているので、創造実践の下支えができるわけです。個性は個性として、その共通部分とは別のところで、付け加えればいいものです。繰り返しますが、個性が創造性ではありません。個性は、創造性とは別のものですが、並存できるものです。「越境リーダーシップ」についても、特異な例を抽出するよりも、越境リーダーたちの多くが共通して実践しているものに目を向けるべきでしょう。それは、それぞれの人の個性を否定することではありません。
まとめ
「暗黙知」や「勘」として共有不可能なものと捉えられていたものが、形式化・言語化されることで、個々人が創造性を発揮するきっかけが広がることを実感した第一回。「創造社会」に向けて、パターン・ランゲージの多大な可能性を感じました。
「越境リーダーシップ プロジェクト」では、想いを持って挑戦する「越境リーダー」達の知恵を、これからも様々な形で抽出し、既存の枠組みを超えて挑戦する人を増やしていきたいと考えています。次回の「越境リーダーシップ Meet up LIVE! 」は、「起承転結人材育成論」を提唱されている竹林一氏(オムロン株式会社)をお招きします。どうぞお楽しみに!
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