国境を越え、社会の課題を解決する価値創造
2016年6月3日に日本電気株式会社にて開催された越境リーダーシップカンファレンス in NEC。通常は人事や経営企画など企画部門の方との協働で開催することが多いのですが、今回は昨年12月に開催されたNTTデータ編に参加された五十嵐氏が「想いを持った人と一緒に繋がっていく機会を作りたい」という情熱から、初めて事業部主催での開催となりました。
「国境を越え、社会の課題を解決する価値創造」をテーマに全日空株式会社 深掘 昂氏、住友化学株式会社 山口 真広氏、日本電気株式会社 渡辺 周氏を登壇者に迎え、国境を超え社会に貢献するビジネスを実現するために、どのようにすればよいのか参加者と共に語り合った3時間。本レポートでは、そのハイライトをご紹介いたします。
越境リーダー‘s STORY なぜ私はこの活動に取り組んでいるのか
第一部では「越境リーダー‘s STORY」と題して、越境リーダーたちになぜ、このような活動を始めたのか、どのような障害があり乗り越えてきたかなど自分たちのSTORYを語っていただきました。ここでは日本電気株式会社 渡辺周氏のSTORYをご紹介します。
日本の技術で発展途上国の健全な発展に貢献する 日本電気株式会社 渡辺周氏
インドは一国の中で最も貧困人口が多い国です。ムンバイには世界最大のスラムがあり、その近くのプネという村で農村開発をやっているNGOのICAそして農業ベンチャーGRAと2011年に出会い、一緒にイチゴのハウス栽培を始めています。2012年に一棟目となるハウスを日本から材料を持っていき建設、2014年には全てインド調達資材で二棟目を立てることができました。毎年、少しずつ改善し、自立するところが見えてきたので横展開を今年から考えています。
ハウスは設計し、調達は業者と交渉するところから関わっていますが、そもそも土地が平らにならない。整地をする人は後で台座をつくるときに調整すればいいと思っている。やり直しをさせるとそのうち怒り出す、設計図がない、CADで出せない、長く作ってしまって後から切る、そんな感じで進み、苦労しながらやっています。イチゴ自体は最初から良い品質でできていましたが、量がなかなか増やせませんでした。最近は目標量の7~8割まで収穫量が上がってきました。事業という意味ではもう一歩ですが、早い段階から5つ星ホテルに売ることができ、ホテルにも喜んでもらえます。光沢があり「何か塗っているのか?」と言われるくらい現地のものと違うものを提供できています。
このプロジェクトのミッションとして貧困を減らし、農村に雇用を作るために始めました。職業がないので街に出るが、職にあぶれてスラムにいることになる。教育が受けられず、貧しい人が増えていく負のスパイラルをなくすために雇用機会を作り、女性が働ける場所をつくることをCSR活動の一環として始めました。農業とICTを使ってインド全体に美味しい良いものを提供したい。日本のイチゴは海外に持っていくと喜ばれるのでやりがいがあります。付加価値の高いものを提供していきたいと思っています。
まだ成功しているわけではありません。自分事の「なぜ」をみつける。「なぜ」が定義されていると個人としてのパフォーマンスが高くなるし、気持ちのブレがない。個人としては最初に必ずやらなければいけない作業だと思っています。自分は何かの専門家でも本当のプロフェッショナルでもない。組織や人の間に入ってお互いの文化を融合していいところを引っ張り出していく。それが強みだと思っています。うまくいかないことは必ずありますが成果を最大限にするために何をすればいいのかをいつも意識して動いています。自分の取り組んでいる事が、世の中の幸せに貢献し、大きなインパクトを生むことを信じる。多少の凹みにくじけないようにやっています。
リーダーシップをめぐる対話 どのようにして新たな価値創造に取り組むか
第二部では小グループに分かれ「組織の中で新たな価値創造を行う際の障害や行動」をテーマにディスカッションを行いました。その後、登壇者によるパネルディスカッションと質疑応答を行いました。ここではその中でも印象的だったやりとりをご紹介いたします。
やりがいと収入のバランスをどのように保ってきたのか?本業へのエネルギーが落ちて評価に影響することはないのか?
(渡辺)私が参画しているNPOではこれまで無報酬で新しい事業を創ってきました。金銭報酬ではなく、やりたいことを実現する場を提供することが対価となっているのです。報酬を払うとどうしても金銭と成果を比較してしまいます。お金を気にする人はいますが、基本的にはみんな社会に貢献したいという想いでやっています。
(山口)当社を志望される就活生の8割位が、「携わりたい」と言う事業を自分がやらせてもらっているという責任を感じており、またマラリア撲滅のためには、自分より優秀な人が担当したほうがいいと思うこともありますが、その責任感を感じつつやっています。ですので、お金については全然不満はないですし、余り興味もないです。やりたいことをやらせてもらえるならそれでいいです。
(深掘)お金をもらわないことの豊かさもあると思っています。社内の有志メンバーと活動をしている際、活動が軌道になりはじめると交通費くらい出してほしいと言う若手もいます。途中で一部業務としてあつかわれ交通費等も出たことがありましたが、出るときと出ないときの差を見ると出ないときは朝7時に誰も文句を言わずにかなりの人が来てくれて、組織という枠がないから自由な意見がでます。でも会社からお金もらうと空気が変わる。上司の確認や部のことを意識した発言となってしまう。もらわないが故の豊かさと自由がある。これは発見でした。もちろん事業にするときのフェーズは必要。予算をだす責任ある部署の人間がはいらないとはじまらないところもある。本業のパフォーマンスが下がると感じたことはありません。始める時に、上司から「本業で120%走れ。1%欠けた瞬間に周りに刺されるぞ」とアドバイスを頂きました。さすがに最初の頃はパフォーマンス下がり周りにも助けてもらった時期も多々ありました。しかし常にBlue Wingではない、担当職務における成果で名前を社内で覚えてもらえるようにしてきました。現職でも今までにないウェアラブルカメラを使ったANAのビジネスクラスのTVCMや企画等を提案から実行まで行う等、本業の方でできるだけ成果をだすように努力しています。本業で頑張っている深掘だからという後付けで、枠に捉われず自由にやらせてもらえるように努力しています。
新規事業を創る仕事をしています。新規事業を立ち上げるときに会社に期待するサポートは?
(深掘)あまりないですね。今、いくつか新規事業を準備中ですが、BLUE WINGの時、GOをもらうまで数年かかっていましたが、今は自分の担当業務と直接関係のないアイディアであっても場合によっては、1ヶ月ほどで会社のトップからGOをもらえるようになりました。今では、本当に正しいアイディアで、自分が情熱を持っていれば必ずわかってくれると思うようにしています。話を聞いてくれる人が多ければいい、というのはありますね。できるだけそういう人が多いと助かります。
(山口)沢山ハンコの必要な出張申請の簡素化とか位で、特に期待はないです。やるか、やらないかです。
(渡辺)できないと思っているのは会社の仕組みより個人がやると何かあるだろうなと、不安が先立つから。僕は気にしません。会社として売上・利益の財務的指標に加え、社会インパクトの非財務的価値に置き換えて「うちはこれをやる」という指標がもっと入ると面白くなるという気はします。
(三浦)結果出し始めた人への調査では「大事なのは形になるまで放っておいてくれること」と言います。始める前に口を出されていると軸がずれていってしまう。自分と向き合えるかどうかだと思います。
(渡辺)やる前にいちいち相談しないほうがいいですね。ちょっと成果を出してからのほうがいい。理論ベースで話すと理屈人に負けてしまうので、ある程度結果を出してからがいいと思います。
ビジネスモデルを考えてみてと言われるが、アイディアを出すが、本当にうまくいくのか自信がもてません。どのようにすれば自信が持てるのでしょうか?
(渡辺)確信が持てないことも自信があるように言わないといけないときがありますが言って、覚悟を持って進めていきます。自分のミッションを実現したいので、失敗するかもしれないけれどもうまくいくことを信じています。プレッシャーはかかるし、怖さもある。向き合っていくしかないですね。ちょっとずつやっていくと慣れていきます。
(山口)私も、今でも自信はないです。もし、アイディアが却下される様であれば、なぜ?の質問を意識して投げかけてみると、良いと思います。上司にムっとされても尋ね続けてみると、目的が見えてくると思います。もしかすると、すごく期待をしていてお願いしているのかもしれない、そのあたりも飲み会とかではなく普通の業務時に、なぜ?と質問してみるといいと思います。また、しつこく聞いてみると、上司が何も考えていない場合もありますし、上司も「ビジネスモデルを考えてみろ」と言われているだけかもしれません。だったら何でもいいと腹をくくり、大きく絵を描くのは自由です。その後は本当にやりたいことや解決したい社会課題が見つかれば、アンテナ張っていると何となく自社の強みが見えて、アイディアが形になっていくと思います。やはり、想い先行でやっていくほうがいいです。人のためになることをしたいと思えるような軸を1つ持つといいと思います。例えば、現地に行って、暮らしを見てみると「誰かのために事業をしたい」という想いの原体験として残ったりします。
(深掘)大企業とスタートアップは違います。大企業にとってやらないリスクを考えることは重要だと思います。「ずっと今のままをやっていけばいいのか?」冷静に考えると、それが大きいリスクになります。例えば自社だったら「他のエアラインがやったら?」と考えるとわかりやすい。
(三浦)アイディアをたくさん出せる人はいますが、本気で自分がやりたいことは違ったりします。本気でやりたいことか?という問いに答えが明確でないとうまく可能性は低い。やりたいことが本気に変わるタイミングは机上じゃなく、試行的に行動し、お客さまになる人の声を聴き、必要性や問題にどう影響をあたえるかを実感することだと思います。
まずは誰かに話すことから始めよう 日本電気株式会社 五十嵐順一氏
最後に今回のカンファレンスの発起人となった五十嵐氏からなぜ、今回の開催に至ったか、その想いと五十嵐氏が考える越境リーダーになるための第一歩についてお話いただきました。
昨年12月にNTTデータで開催された越境リーダーシップカンファレンスに参加しました。その時に、今日と同じく深堀さんが登壇されていて、すごく心にズドンと来たんです。アドレナリンが上がって、家に帰ってもからも興奮が収まらず。そこで三浦さんに「うちの会社でもやりたいです」と言ったのが始まりです。今日もそうですが、越境リーダーの話を聞くとすごすぎて「普通の平社員はどうしたらいいだろう」と思ってしまいます。越境リーダーの行動の段階10とすると僕は1か2だと思います。0から1や2にする方法は話せるので、それについて話させてください。
3人の方々に共通しているのは本当に強い想いを持っている、自信をもって自分の中で核となるものがある、ということです。それでは、想いは何かしらあるかもしれないが、そこまでの強い想いはどうしたらできるのでしょうか。私の場合、2008年に入社したときにも想いは持っていました。「世界中の人々を幸せにしたい。それに貢献できるビジネスをしたい」と。でも、振り返ると漠然としていて、幸せにしたいが「何をするのか」その一歩先に踏み込めず、ずっと負のスパイラルに落ちていました。そんな私にあった転機が結婚です。当たり前ですが、結婚すると家に帰ると人がいるんですね(笑)。なので話をします。例えば自分が考えていることとか、どういうことをしたいか、ということも話したりします。すると想いがぼやっとしていたのが少しずつ輪郭が見えて、どういうアクションを起こせばいいのか、だんだん見えてきます。小さい第一歩ですが、誰でもいいから人と話せばいい。自分の想いを口にして、口に出してどんどん輪郭を付けて、それで初めて想いが強くなっていく。そうすると何かを起こそうという気持ちになっていきます。
私は半年前まではオランダに2年間赴任していました。まずはNGOやNPOの情報をかき集めて調べ、日本のNGOのブログのアンケートのボランティア募集を見つけ手伝ったのが私の第一歩です。翻訳のボランティアなども行いましたが、単発のため継続性がなく、日本に帰ってからは活動を本格化させるべく、社外で話を聞いたり、社内にいる面白い人の話を聞いたりしていました。そのときにある人から社内の渡辺さんを紹介してもらい、会いに行き、自分の想いなどを暑苦しく話したところ、越境リーダーシッププロジェクトのことも教えていただき、12月にカンファレンスに参加し、その後企画して今日を迎えました。今思い返すと全部つながっています。
渡辺さんと話している中で、渡辺さんが進めているプロジェクトに自分も参加したいと思いました。そこで、上司に越境リーダーシップカンファレンスの相談をするときに、そのプロジェクトへの参画についても相談しました。すると「是非やってくれ。どんどんやってくれ」と言ってもらえました。本音では本部の仕事に専念してほしいのだと思います。けれども認めてくれた。本気でやらない訳にはいきません。このイベントも一人では実現不可能で、何すればいいのかを聞くところから始まりました。企画書を書いたり、コーポレートの部門の方にも相談したりしました。また自部門の主催にするために、自部門にもメリットのある設計にしようと運営メンバーを募集して、仲間を作り、この場を出発点として将来的には自分たちで事業創造につなげる取組みにしたいということを部長に説明し、了承してもらいました。
一番大事なことは、最初に話すことです。稚拙な想いでもいいから口に出す。紙に書き起こしてみる。仕事だけじゃなく、どういう人間になりたいか、なんでもいいです。とりあえずたくさん書いてみる。するとだんだん輪郭がみえてきて、行動に移せるようになっていきます。そして想いが強くなれば、継続する活動ができるようになっていく。今日のような話を聞くと刺激を受けて、すごいと思うと同時に凹んだりします。それはすごくいいことで自分がダメなところが分かり、成長につながります。こういったことを継続していくことが、新規事業を起こす第一歩として重要なのではないかと思います。
まとめ
「まずは話してみること」「動いてみる」「自分のやりたいことをやる」といった言葉が繰り返しでてくることがとても印象的だった今回のカンファレンス。実際に事業として日々試行錯誤している方々も多く、同じような不安や悩みを抱える仲間と出会える場としても意義のある時間になったのではないでしょうか。これからも越境リーダーシップカンファレンスでは越境リーダーとして活躍している人、越境リーダーシップを発揮しようとしている人、彼らを支える人など様々な人が交わり、相互に影響し合う場として開催いたします。ご興味のある方はいつでも、事務局にお問合せください。
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