現存する社会課題と向き合い、今後の課題を先読みし、価値提供を目指す

越境リーダーシップ プロジェクトの取り組みとして、個人のWillに基づいた価値創造やWillが育まれる組織カルチャーの醸成に力を入れている企業にリサーチインタビューを実施しています。第1回となる本インタビューでは、株式会社NTTデータ 社会基盤ソリューション事業本部ソーシャルイノベーション事業部長である小寺基夫氏に話を伺いました。

ソーシャルイノベーション事業部は、いまある社会の課題と向き合い、かつ、今後の社会発展での課題を先読みし、社会としての価値提供を目指す組織です。

ビジョン:感動と驚きを与える存在になる

― ソーシャルイノベーション事業部は、NTTデータ社内でも特にユニークな事業部としてのビジョンを掲げていると伺いました。どのようなビジョンか、お聴かせいただけますか?

これからは個人が成長することと、会社が成長すること、社会に貢献すること、これらがセットでなければ上手くいかない時代になってくると思います。これを解決する方法を見いだせないかと考えました。

そこで、「感動と驚きを与える存在になる」というビジョンを掲げています。メンバーに対しては「感動・驚き・共感を与える存在になろう、それを通じて圧倒的な価値を提供していこう」と伝えています。

事業部として、社会に圧倒的な価値を提供していきたいと思っています。とはいえ、ここでいう「価値」とは何かを一概にいうのは難しいですね。ただ、シンプルに考えると、お客さまやパートナー企業に感動や驚きや共感を感じて頂くことが出来れば、高い価値を提供したと言えるのではないか?と思っているからです。

事業:ビジネスモデルを変えるために思考を変える

― そのビジョンを達成するために何が必要だとお考えでしょうか?

メンバーの思考や意識を変えることが必要だと感じています。

NTTデータは、お客さまと向き合い、そのお客さまが持つ課題を、そのお客さまに最適な方法で解決するというビジネススタイルを創立以来から持っています。それは言い換えると、1つ1つの相対取引モデルの中でビジネスを思考してきたと言えます。

そのため、メンバーは「新しいアイデアの実現によって、自ら新たなマーケットを創造し、それが大きな潮流へつながっていく」というような発想でビジネスを思考する機会は多くありませんでした。

このビジネスの発想を変えていくことに挑戦しています。

― 慣れ親しんだ思考パターンを変えるのは、とても難しいと思いますが、どのようにすれば変えていけるでしょうか?

ただ単に「新しいことに挑戦してほしい」とだけメンバーに伝えると、ここには落とし穴があります。

「新しいこと」というと、みんな「発明」しようと考えます。「0からとびきり新しいことを考えないといけない!」と思い込んでしまう。

私は「インベンション(発明)ではなく、イノベーションで良い」と伝えています。ここでいうイノベーションは「新結合」、つまり、既存のもの同士を組み合わせて、新しい価値を創ることを意味しています。日常の仕事を新たな組み合わせで考えてみる。点と点を結びあわせて線にして、線と線を結びあわせて面にして、面と面を組み合わせて立体にすることで強い価値が生まれてくるという発想でよいのです。

そう伝えると、みんなが感じる挑戦へのハードルも下がります。自分がやっていることに近いものを見つける。それがどう組み合わせることができるかを考えて、「ちょっとつながらないな、こっちで考えようかな」と試行錯誤、つまり小さな仮説検証を繰り返すようになります。この思考回路を身につけることこそが、思考や意識を変える第一歩になると思います。これによって、個人の成長カーブも、ぐんと上がっていきます。

― 思考や意識の変化から、さらにその先にメンバーが事業化するようなアイデアを生み出せるように工夫されていることはありますか?

事業を作る上で重要なことは個人と個人の連鎖反応です。0から1を創造するようなアイデアを生み出すことを得意とする人、戦略やストーリーを作ることが得意な人など組織の中には様々な人がいます。一人の人間が全てを持ち合わせているわけではありません。機会を見出して、想いがある人やビジネス化できる人などが集まることで、連鎖が始まります。

ダイバーシティ&インクルージョンといわれますが、一人ひとりが多様な能力を持ち合わせています。そのような個人の資質や能力を上司や他のメンバーが発見・発掘してあげることが重要だと考えています。

組織の中に多様な経験値を増やしていくことがビジネスの成長に繋がると考えています。それに向けて「新しいことが生まれる個人の連鎖反応をどう作るか」が、いま私が取り組んでいることです。メンバーの成長を考えると短期的な成長だけを目的とするのではなく、長期的な目で見ることも必要だと考えています。

施策①:対話による下地作り 「事業部長キャラバン」

― それでは、具体的にどのような施策をされているか教えていただけますか?

「事業部長キャラバン」という施策を毎年実施しています。対象となるメンバー200人超を1回当たり20人程度に分けて、私から1時間メンバーへ話し、次の1時間でメンバーからの意見を聞くというセッションを開催しています。

― メンバーからはどのような意見が上がってきますか?

「(いろいろな施策に対して)何が目的なんですか?」「何の結果を出せばいいですか?」と、よく質問されます。私はいつも「ゼロかイチかで答えが出来るような、あるいは、期限を切った中途半端な結果なんて求めていません」と答えます。

「事業部長キャラバン」は、アウトプットを求めるものではありません。セッションを通して、自分とは異なる考え方や発想に出会う、点と点を繋ぎ合わせる、そのきっかけとなる「場」をメンバーに提供する事を目的としています。最初の頃は「そんなことやっていって何の効果があるの」って思われる。でも、このセッションをきっかけに、発想の飛躍の糸口やアイデアの連想方法など、何かしらの気づきを得てくれていると感じています。

発想やアイデアの質は、ドミノ倒しやオセロで一気に黒が白になるように、突如として変わっていくものです。「事業部長キャラバン」では、個人間の連鎖反応を加速させる下地を作っているのです。

事業部長キャラバンの様子 机を取り払うことで、心理的にも参加者間の距離を近づけ、繋がる場づくりを大切にしている。

施策②:連鎖反応をおこすネットワーキング 「ドメイン超会議」

他にも、「ドメイン超会議」という取り組みをしています。

自分が所属するチームとは違うチームのファンになり、そのチームのメンバーと交流する施策です。

組織が大きいと知らない人がいるのは当たり前です。この施策で、同じ組織でも実はよく知らなかった人同士が交流する場を作ることで、組織内に面白いことをやっている人がいるということに気づくようになります。「ドメイン超会議」は組織内のネットワーキング活動を後押しする施策です。

ドメイン超会議に参加したいというメンバーは意外と多い。成長への道筋や、どういうスキルを磨いていけばいいか、というような漠然とした不安を持っており、それらを解決するためのヒントを探しに来ます。だから、メンバーは自然と集まってくるのだと思います。

やはり、これも、「このアウトプットを出してください」というようなゴールは設定しません。優秀なメンバーが多いので、ゴールを設定するとありきたりの結果を先に考えてしまう。これでは、小さな仮説検証をしなくなってしまいます。

― アウトプットなどのゴールを持たずに活動にすることは難しそうにも見えますが…

アウトプットや目的・ルールが決まっていると進んで取り組むことができる。でも、自由過ぎるとみんな動けなくなる。このようなマインドセットをチェンジする取り組みをしていきたいと感じています。

ゴールを決めないと困ったり不安になったりする人もいますが、私はそれで良いと思っています。仮説を自ら繰り返す途中に不安や悩みはつきものなので、むしろもっと悩んでもらいたい。

施策③:自由の中での試行錯誤「スキルアップファンド」

自分の能力開発のために、社員ひとりひとりに一定の予算を自由裁量で使ってもいいという施策を導入しています。ところが、実際に「予算を使ってこういうことやりたい」と応募してくる人は多くはありません。一方で、組織として目的やゴールを明確に設定したものはみんな着実に実行します。自由に、自分の能力磨きのために予算を使って良いよって言うと「何して良いかわからない」と迷ってしまう人が多い。

研修制度を作る際にも似たようなパターンがありました。「先生を雇って数十人の規模で語学研修やるけど、興味ありますか?」と言うと多くの人が手をあげる。しかし、「予算は工面するので、自ら企画し、講師を自分で呼んできて人集めからやってみませんか?」と言うと手は上がりにくい。

ちょっとしたことからで良いので、自分の意志を起点に実行して、改善するというサイクルが出来ないと新規事業を創ることは難しい。「自由」の中で自ら試行錯誤をして結果を残すことができる組織になることが、ビジネスの成功に繋がると考えています。

組織カルチャーを変えるマネジメント

― こうした取り組みに対して、ラインの上司はどのように関与していくのか、管理職に期待することには、どのようなことがありますか?

メンバーに変化をもたらす上では、同時に管理職も変わらないといけません。まずは社会に対するアンテナを張って、自らの考えやマネジメントの方法を軌道修正できるようにならないといけない。

一方で、当然のことながら、管理職は今目の前のビジネスでしっかり収益を上げていくことの責任もあるわけです。これは組織が本来もっている構造的なことです。

課長は現場の責任を負っています。そこに、違う視点を投げかけられる部長がいるか?ということが大切です。現場に目を奪われがちなところに、違う視点のインプットや示唆が与えられるようになると、もっとよくなるのではと思います。

その点は、働き方改革というテーマで、直属の部長以外に、クロスで他部署の部長との斜めのコミュニケーションが起こるような施策を導入しています。サイロでできた縦型の組織は、効率的に動きますが効率性だけを求めると、新たな知の探索が止まってしまう。そこで、横方向へのアクティビティーの量を意図的に増やす。その中で、部長にも自分のチームだけでなく、どのような人財がどこにいるのかも見えるようになってくることを期待しています。

個人のwillを見つける

― 新しい発想やアイデアを持っていても既存のビジネスがあるため、なかなか取り組めないという人もいると思うのですが、いかがですか?

もちろん既存の領域の仕事は会社を支えるものであり、重要な仕事であることは変わりません。新しい発想やアイデアは必ずしも新規という領域だけの話ではなく、既存のビジネスにも機会は多くあります。

そこで、9割の時間で既存の仕事をやりながら、残りの1割で自らの想いを持てる仕事に取り組める組織文化を作って行くべきではないかと思っています。

自分が想いを見つけることができれば、そちらに割くリソースの割合を増やすために、既存の仕事を更に効率化できないかと自然と考えるようになります。優先順位を決めて行動できるようになると、既存のビジネスも更に上手く回るようになる。

メンバー全員が、自分の想いを見つけられるとは限りません。だから、「この仕事をしたい」という直感や意志を育む必要があると思っています。何をやっていいか分からない人が多いのは普通です。目的やゴールがない状態でも、考えたり行動したりする場を提供する必要性があると考えています。その中で自らの想いをもって取り組みたい事を見つけてくれればと思っています。

働き方改革ユニット、ドメイン超会議、スキルアップファンド施策など、自分自身の想いを持って取り組める事を見つけるための機会を作り続けています。そういう施策をとことんやる。チャンスを与えて与えて与え続ける。もちろん、それを見つけることはノルマでもないですし、達成すべきゴールでもありません。

FY19 ソーシャルイノベーション事業部施策の資料(①~⑨が具体的な施策)

最初の一歩となる多様なきっかけをつくる

― いただいた資料には、9種類の施策がありますが、なぜそれほど多くの施策が必要なのでしょうか?

人それぞれにやりたいことや、やりやすいことは異なります。人とコミュニケーションしたいと思う人もいれば、それが得意でない人もいる。だから、色々な角度で時間や場を提供していく。そのうち、どれか一つでもいいので、「この施策に自分がフィットするかも」と思ってもらえれば、良いなと思っています。自ら施策に応募・参加するといったように、自らの意志で一歩足を踏み出してほしいと思っています。強制してはいけません。自分の意志で動き出すことが一番大切です。

一歩踏み出した時にそれにマッチしたスキルやノウハウは持っているとは限りません。でも、自分で踏み出したからには何かやらないといけないと本人は思い始めます。不安や悩みを抱えながらも試行錯誤していく中で、ある日ようやく自分のWillで仕事を作り出していくことができる。最初の一歩を踏み出す動機づけが一番難しい。メンバーが自ら足を踏み出す機会を作り続けることが組織づくりの根本であるべきだと考えています。

みんな同じ方法で成長するというのは有り得ません。成長のきっかけやスピードは人それぞれです。だからこそ、色々な一歩踏み出せる入口をつくり、自ら手を挙げて参加してくださいとしています。自分のちょっとした意志表明を大切にする。その入口となる機会を様々な角度や内容で施策として用意することとしています。

メンバーの意志と多様性を尊重した価値創造のエコシステムを作る

― これから挑戦していきたいことは、どのようなことですか?

繰り返しになりますが、とにかく手を挙げる、足を一歩踏み出す機会を作ることが重要です。こっちの施策でも手を挙げ、こっちでも足を踏み出していけば、なんとなくできるかもしれないと思い始める。そのような機会を組織の中に作り続けることを私はやっていきます。

これからは「個人が成長すること」と「会社が成長し社会に貢献すること」の2つが同時に達成されないとビジネスがうまくいかなくなる時代です。様々な施策を通して、自らのWillで一歩踏み出す機会を組織の中に作り続けています。まだ挑戦の途上ですが、メンバーの意志と多様性を尊重した価値創造のエコシステムを組織内に作っていきたいと思っています。

まとめ

新規事業創造も組織のカルチャーのアップデートも、短期的な成果を急ぐがあまり、正解や型を求めるのではなく、向き合って考えつづけ、行動し続けることが大切です。それは個人も企業もユニークな存在であり、他者、他社の成功事例の方法を適用すればうまくいく領域ではないからです。

みんなで実行し、学び続けたプロセスの先に、自社にしかない創造的な文化や新たな事業が生まれていくのだと思います。

既存事業をしっかり回しながら、新たなことに挑戦することは、とても時間がかかることですし、時には勇気が必要な施策をやらなければならないこともあります。でも、それをやり続けた組織が強力な価値創造を生み続ける組織カルチャーを手にすることができるのだと思います。それには、想いがあり、本気で実現を可能にしようとするトップと価値創造に挑戦する実践者の存在が必要です。ソーシャルイノベーション事業部は、これらの要素を兼ね備えている可能性のある組織です。

ソーシャルイノベーション事業部では、実業を兼任したイノベーション推進を企画するメンバーの方々と新たな価値創造の取り組みの推進と組織カルチャーをアップデートすることを目的とした「ビジネスフォーサイト」という取り組みを、共創し、伴走しています。この取り組みの中でも、重視していることが、「個としてのWillの確立」「越境し、視座を上げ、視野を広げる」「可能性を見出す」ことです。

2019年は「ビジネスフォーサイト」の取り組みとして、社員起点による主体的なカルチャーアップデートの取り組みがスタートしました。ウィルソン・ラーニングで新たに開発した、社員の「想い」が伴った新規事業創造を生み、組織のカルチャーをアップデートするための2つのツールを一連の取り組みのなかで活用しています。

「価値創造リーダーシップ体験プログラム」
https://jp.wilsonlearning.com/969/

「クリエイティブ・カルチャー・プロファイル」
https://jp.wilsonlearning.com/972/

社員の意志と多様性を尊重した価値創造のエコシステムの実現により、これからの個と組織の関係性の在り方に大きく影響を与えていくことを願っています。
(越境リーダーシップ プロジェクト ファウンダー 三浦 英雄)

※本事例は、成功事例ではなく、世界観を描き、試行錯誤のプロセスにある挑戦事例です。

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