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会社にいながらも社会をよくしていける

想いを持った個人が既存の枠組みの境界を越えて、社内外の必要なリソースとつながり新しい価値をつくる。この行為を「越境リーダーシップ」と名付け、越境リーダーの発掘、コミュニティ形成、育成に取り組んでいるウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社の三浦 英雄氏。なぜこのような取り組みを始めたのか、その原点となった想いと形になるまでの道のりを伺いました。

自分のエネルギーを無心になって注げる事業を創りたい

越境リーダーシップとは何でしょうか

想いを持った個人が既存の枠組みの境界を越えて、社内外の必要なリソースとつながり新しい価値をつくる、この行為を「越境リーダーシップ」と呼び、そのような行動をとっている人を「越境リーダー」と呼んでいます。リーダーという役割や役職の人がやること、と思われがちですが、自分の内なる想いを行動に移すことを私たちはリーダーシップと定義しています。

何がきっかけでこのような取り組みを始めたのでしょうか

自分のエネルギーを無心になって注げる価値ある事業を創りたいとずっと思っていました。リーマンショック以降、子供が生まれてから、このままでは子供たちがワクワクしながら生きていける社会にはならないと危機感を感じていました。それを変えていくために役に立つことがしたいと考えていたのです。ですが、自分の想いを実現しようとするには今の会社ではできない。やりたいことをするには会社を辞めないといけない、二者択一になることに生きづらさを感じていました。

悩んでいるうちに「二者択一というのは自分の枠組みの中の判断であって、会社にいながら個人の想いを実現することはできないのか」第三の選択肢を考えるようになりました。自分の欲望を満たすのではなく、よりよい社会をつくるためにニーズのあることならば事業に直結する話でもあり、両立できるはずだと思えたのです。会社にいながら社会をよくしていけるという選択肢ができれば、個人がやりたいことと仕事を結び付けられる。働き方として可視化されたときに第三の選択肢として選ぶ人が増えるのではないかと仮説を立てました。

 

 企業にいるからこそより大きな影響を社会に与え、早く世の中を変えられる

なぜ企業にいながら、ということが重要なのでしょうか

もちろん起業して、個人のネットワークで価値創造をしていくことはできます。しかし社会的にも影響を与え、早く社会を変えていくためにはたくさんのリソースが必要になります。企業は経済で動いているからこそ大きなリソースを持っている。それをうまく活用することでより大きな影響を与えることができると考えました。

個人的な活動も重要ですが、企業が衰退すると国自体が衰退することにつながります。企業の中に越境的な活動をする個人が増え、そういう人達がつながることで社会的に大きなことを成し遂げる。その結果、新しい市場が創られ新しい雇用につながると思っています。また日本は社会的な理念を持っている企業が多く、理念に共感して就職する人も多い。個人の想いと企業の理念、社会的な意義の原点に立ち返れば、重ね合わせられるし、時代的にもそれが必要とされている。理念に基づいた企業活動が活性化されることで、よりよい社会の実現につながるのではないでしょうか。会社がつくったものは細部まで魂を込めるのが難しいが、個人がつくったものは細部まで魂がこもる。ビジネスはより本質的なものでなければいけないし、そういうものを増やしたいと思いました。

社内起業と越境リーダーシップの違いは何でしょうか

社内起業は手段の一つだと思っています。これまでは成功するビジネスモデルがあり、それを回すための効率的なオペレーションを動かすために仕事をしていく。仕事に人が合わせていました。これからの時代は仕事そのものをつくることが必要だと思っています。そうなったときに自分の会社のなかだけ、現在やっている仕事の範囲だけで新しい仕事をつくるのはとても難しいことです。社会課題とつながらないし、解決できない。自分たちがつくった境界を越えて動くという覚悟を持った人たちが動いていくことが必要になります。

越境が先ではなく、目的のために動いていたら結果として自然に越境することになる。何をすべきか、と考えていくと今の枠組みを越えていかないと社会はよくならない。自分の想いに従い、考えて行動した結果、越境している。そういう人を増やしたかったし当時、自分の知り合いに2人くらい組織にいながら価値のあることをやろうとしている人を知っていたので、増えてきているとも感じていました。そこで自分が事業として仕組みを作り出す事で越境リーダーが増えていくことをやろうと思った。そのために動くことが自分自身も越境リーダーシップを発揮することにつながりました。

数は少ないかもしれないけれども、強い共感をしてくれる人たちがいた

具体的に何から始めたのでしょうか

直感的にそういう人たちがいる、という感覚と「増えたらいいな」という願いから始まったので、それが具体的に何なのか、わからないと企業を巻き込めないし、世の中にも伝えられなかったため、具体化するにはどうしたらいいのかを理解することから始めました。事業にするイメージが掴めなかったので実践しながら研究することにしたのです。主観的に「越境リーダー」だなと思った人を招いて、どのような世界をつくることをイメージして、どのように行動しているのかストーリーを話してもらい、それを「越境リーダーシップ」と定義すると何が必要なのか、参加者と対話する「越境リーダーシップカンファレンス」というイベントを5回開催しました。

実は最初は2人の登壇者が決まっていたがそれ以外は決まっていませんでした。そういう取り組みを始めることを情報発信すると自然に紹介や出会いが増えつながり、1回目を始めるタイミングで5人の登壇者が揃いました。イベントを開催した結果、共感してくれる人がかなりいました。「こういった働き方をすることが自分、企業、日本全体を変えていく」という意見もありました。数は少ないかもしれないけれども、強い共感をしてくれる人がいることが発見でした。越境リーダーシップを発揮した仕事や生き方をしたい、と求めている人がかなりいて、ニーズがあるとわかりました。

当初は会社に提案したら「意味がわからない」と言われました。ウィルソン・ラーニングは世界50ヶ国で展開している企業ですが、リサーチに基づいて開発された根拠あるプログラムであり、理論・体系化されているからグローバル展開を可能にしています。サービスとしてまだ理論が明確でないものは社名を出せないと当時の社長に言われ、「出さなければ、やってもいい」と解釈し、一橋大学や慶應義塾大学の教授と産学連携で越境リーダーシップ推進委員会をつくり、ウィルソン・ラーニングイノベーションセンターを活動の場として、実践研究をスタートさせました。

パターンランゲージを活用し、前例のない活動を体系化

どのようにして会社に認められるようになったのでしょうか

三浦個人がやっているとたかが知れているので、会社を巻き込む必要がありました。そこで、越境リーダーに来社してもらったときに社長にも会ってもらいました。すると「こういう人は面白い。世の中を変える可能性があると思う。そういう人を活かし、世の中を変えるサービスをつくれるならばやってみたほうがいい」という声をもらえ、イベントでの成果も実績として見せられたので正式な業務として認められ、名刺ができ、肩書きを持って活動できるようになりました。

実践研究はどのようにして進められましたか

最初のイベントを開催したときに、事前に一人ずつ2時間くらいのインタビューをしていました。するとゼロから新しいことを始めるときに乗り越えないといけない障害や障害の克服方法に共通項がありました。それをどうやって体系化したらいいかを考えたときに、今までの手法ではフィットするものがありませでした。新しい価値創造の場合、前提となるやるべきことが定義できない。定義しながら動かすことになるので今までの手法は使えない。ただ共通的な障害はある。それをどうすればいいのかモヤモヤし続けていたときに出会ったのがパターンランゲージでした。

パターンランゲージを使うことで、越境リーダーシップを発揮するときにどのような障害に直面するのか、乗り越えるために必要な行動が何か、実践知を体系化し、共有するためのツールにできる。井庭さんに会ったときに直感的に思い、話をしたら「できます」と言われ、体系化が始まりました。15人くらいの越境リーダーと1つのテーマで対話する場を作り、インタビューやワークショップをしながら共通項を抽出しパターンランゲージにまとめ上げていきました。そして2015年6月に「越境リーダーシップ 事業創造アーリステージのパターンランゲージ」として体系化し、リリースすることができました。これにより、越境リーダーシップを可視化し、実践者の視点から実践のためのツール・プログラムを開発できるようになりました。

まとめ

周りも起業している人が多いため「まだ会社いるの?」と言われることもあるけど、その会社にいるからこそやることの意義があり、より描いている世界観に近づける。志を共にする人とつながることができるならば企業の中にいるほうが有効な場合もある、と言う三浦さん。

個人としては越境していても、組織の中で境界を越えて動いている人やアイディアを事業として実現する人はまだ多くはありません。初期段階は評価されない、また、出世からも遠のく可能性があるといったデメリットが存在するのも事実です。しかし新しい働き方として越境リーダーシップが認められていけば、現在こういう活動をしている人たちも社内外で認められ働きやすくなっていくのではないでしょうか。そのためにも越境リーダーシップとは何かを私たちはこれからも考え、実践していきたいと思います。


三浦 英雄     Miura Hideo

ウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社
HRD事業本部 営業部長 兼 越境リーダーシッププロジェクト ディレクター

2012年10月よりグローバル営業部長兼務にて、「越境リーダーシップ」プロジェクトを産学連携で設立。
自らの想いを起点に、既存枠組み(組織、事業領域、国)を越境し、社会的課題を事業で解決するため、異分野との共創関係を構築して価値創造を目指す「組織内個人」のリーダーシップを支援。個人の想いを起点とした社会的価値を生む事業創造活動の実践研究・リサーチ、価値創造の仕組みづくりを行う。

日本元気塾 米倉誠一郎塾「個の確立とリーダーシップ」 1期生

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