「社会課題×ITテクノロジー」 セクターを越えた共創による新たな雇用を生む市場の創造
ITアウトソーシングサービス事業の責任者を務めるとともに、コーポレイトシチズンシップの若者の就業力・起業力強化チーム責任者として、CSR活動を通じて、若者就労支援、起業支援を行っている市川 博久氏。その1つに2014年6月NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボさんとの協働でスタートした「ローカルグッドヨコハマ」があります。彼らがどのような想いから、何を目指してこの取り組みを始めたのか。その原点と、これから目指していくことについて伺いました。
地域の課題を見える化 市民参加型で解決できる可能性を高める
現在取り組まれているのはどのようなことでしょうか
私たちの主な取り組みとして、社会課題を見える化し、課題解決のために地域市民の参加を促すプラットフォーム作りがあります。その1つに、2014年6月NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボさんとの協働でスタートした「ローカルグッドヨコハマ」があります。行政のオープンデータ、市民のつぶやきをはじめとするソーシャルメディアのデータなどを利活用し、横浜市が抱える地域課題を見える化しようという試みです。
見える化することで、「自分が何とかしたい」と思う人も現れ、市民参加型で解決できる可能性が高くなります。そこから地域活性化につながり、新たな雇用も生まれ、若者が参入しやすい就労環境につながっていくことを目指しています。
培ってきたもので社会に価値あることを還元したい
この取り組みのきっかけとなったことは何でしょうか
私は、2007年ITアウトソーシング事業という新規事業を社内で興し、数年間は必死で仲間と共に立上げを行ってきました。その後、ビジネスが軌道に乗り、少し広い視野で物事を見られるようになって、気になり始めたことがあります。アウトソーシング事業の場合、半分以上の業務が海外で行われています。自分たちがビジネスの成長だけを追いかけていれば、国内の若者の就業機会の減少につながる。日本経済の持続性にも関わる切実な問題です。
そのようなことを考えていた矢先、悪性の骨腫瘍に罹患していることが判明しました。手術のために入院し手術の前日、会社が世界的に企業市民活動に力を入れる、その参画メンバーを募集するというメールが飛び込んできます。
今まで自分の意思と力さえあればなんでも切り拓けると思ってやってきました。だけど、自分の力ではどうにもならないことが起こってしまった。培ってきたもので社会に価値あることを還元したいという想いから若年層の就業力強化、および起業力強化チームの責任者としてエントリーしました。
横浜市、大学機関、企業、議員などセクターを越えて問題意識を持ち込む
具体的にどのようなことに取り組まれたのでしょうか
支援先のNPOさんに貢献することはもちろんですが、その先にある社会的な課題の解決にコミットして、自分たちのスキル、リソースを最大限活用できるか、という考えで活動してきました。なかでも、NPO法人横浜コミュニティデザインラボさんとのローカルグッドの取り組みは、単なるNPOと企業のCSR活動という枠を越えた活動でした。
横浜市、大学機関、他の企業、議員の方々などセクターを越えて、問題意識を持ち込むことで、当初想定していた内容が目まぐるしく変化していきました。最適解が見えない議論が続くこともあり、ビジネスシーンではあまり直面することのない状況も多々ありました。それでも、「地域市民が主体的に課題を持ち込み、自分たちで課題解決するプラットフォームをつくる」という目的に向けて、対話を重ねることで、それまで自分たちだけでは生み出すことができなかった手法であったり、気づきを得ることで、本質的な課題発見と成果に繋がるプラットフォームがつくれたと思っています。
多様な人々と解を創発的に生み出す越境的な取り組みを経験できたことや人との繋がりは、これから企業で新しい価値創造を行ううえで貴重な資産です。
1人1人が心のままにアクションを起こしていける社会に
これから大切にしたいことはどのようなことですか
0から1を生み出すことを企業としてもやっていかないと、生き残っていけないと思っています。そのためにはCSR活動を通じて行った越境的な取り組みを企業活動に持ち込むことができるんじゃないかって感じています。1人の人間にやれることなんて限られているから、自分にないものを持っている社会を変えようとしている人たちが集まることで、創発的に解を生み出すことをしていかないといけない。
セクターを越えてオープンイノベーションが生まれる仕組みをつくり、社会を変えようとしている人たちと課題を切り出し、価値を創造する取り組みをしていきたいと考えています。そして社会の在り方として1人1人が心のままにアクションを起こしていける社会に変えていきたいと思っています。その結果、アクションが紡ぎ合わされて社会の流れになっていけばいいなと。
いまのこども世代が社会に出たときに、劇的に日本が良くなっていることは難しいと思うし、難しい課題は続いていると思うんですが、心のままにアクション起こしていってほしい。過度に努力するんじゃなくて、仲間に頼って。そんな世の中に流れをつくっていきたいです。
まとめ
市川さんは「何をやるか」と共に「誰とやるか」を大切にしています。CSR活動を「社会課題の解決」にフルコミットとして取り組めるのも、信頼できる事業を共につくってきた社内の仲間がいるからこそ。管掌する事業部門の人たちがCSR活動にも参画しています。だからこそ、志を共にできる社外の仲間と全力で取り組める。
目的と責任を共有する越境的な創発が生まれるチームが形成されていくことで、単一の組織では成すことができないことを世の中に創りだすことができる。アクセンチュアチームが支援する横浜市のローカルグッドの取り組みはそう実感する事例であり、プラットフォームと共に「在り方」が日本に広まることを期待しています。
市川 博久 Ichikawa Hirohisa
アクセンチュア株式会社
オペレーション本部 インフラストラクチャーサービスグループ マネジング・ディレクター兼、
コーポレートシチズンシップ推進室 若者の就業力・起業力強化チーム責任者
ローカルグッドヨコハマ http://yokohama.localgood.jp/
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