新たなビジネスモデルとして世界中で浸透しつつあるシェアリングエコノミー。日本でもインバウンドの宿泊需要に応える目的で2017年に民泊に関する規制が緩和されるなど、シェアリングエコノミーが広がっています。
今回の「越境リーダーシップMeet up LIVE!」*は、総合人材サービス業・パソナのソーシャルイノベーション部長の加藤遼さん、日本生活協同組合・本木さんにご登壇いただき「協同組合型経済」とシェアリングエコノミーの共通点、そして地域におけるシェアリングエコノミーの未来について熱く語っていただきました。その中でも印象的だったハイライトを中心にご紹介いたします。
*「越境リーダーシップ Meet up LIVE!」とは、自らの想いを起点に境界を越境しながら価値創造に挑戦する「越境リーダー」を毎回一人招き、現在進行中の活動、これからの展望を伺い、実践者同士の創発につなげていくための取り組みです
経済価値のみを追求した事業では地域の持続的な発展にはつながらない
現在内閣官房のシェアリングエコノミー伝道師を務め、「シェアリングエコノミー×地方創生」の第一人者と言えるほど活動されている加藤さん。現在の活動に至った背景には、パソナでの地域の仕事づくりがありました。
入社後は震災をきっかけに3年間、東北復興支援事業の企画・立ち上げを任され、被災地の雇用のミスマッチを解消するための就労支援に従事。その後は東北の新しい産業創造のためのファンド立ち上げと東北の起業家の育成に取り組みました。
しかし、ビジネスの世界で結果を出すことにこだわっていると、地域の中で技術的に優秀な人や、起業家精神のある人など、どうしても限定されてしまう。一方で住民は、それぞれ長年その土地に暮らしていて培った特有の知識やスキルがある。たとえば森林管理の知識や農業、伝統文化の知識など。そういう人たちと話しているなかで、人間としての学びがあり、自然の生態系について考え、地域の持続的な発展に意識を向けるようになったそうです。
その経験から「経済価値・社会価値・文化価値のある新しい仕事・働き方を、地域の個人のために創る」ことを意識するようになっていきます。
シェアリングエコノミーとは共有経済ではなく共助経済
シェアリングエコノミーは一般的に共有経済と訳されます。しかし加藤さんはこの言葉に違和感があると言います。どちらかというとCtoCのジャンルが増え「個人が自分の知識・経験・資質を活かしてサービスを提供していく」という感覚に近いと。
現在は加藤さんは、パソナでシェアリングエコノミー協会やAirbnbなど、様々な関係者と連携し、「地域の個人が輝く」ために、シェアリングエコノミーによる旅行事業を中心に取り組んでいます。具体的には、地域に眠る様々な遊休資産(空間、乗り物、モノ、人のスキル等)を地域に訪れた人に提供していくことで地域課題の解決、そして地域に新たな雇用と経済効果の創出を目指す事業を牽引しています。
昨年実証的に徳島県で行なった、阿波踊り期間中のシェア事業では地元でホストを募集。民泊という言葉も、シェアリングエコノミーも知らないシニア世代から多くの応募がありました。地域の新しい働き方や地域住民、特にシニアの生きがいややりがいの創出につながることを実感するとともに、日本の文化を深く体験したい、という外国人のニーズがあることも確信したそうです。宿泊場所だけでなく、ホストが持っている知識やスキル、資産などをシェアすることで「暮らし全体をシェアする」という包括的な新しい働き方が生まれたのです。
さらにパソナでは「農家の担い手不足の解消」「農山漁村地域にある貴重な自然や文化の保護」を目的に、農山漁村地域で滞在しながら農業・漁業をお手伝いをする農泊事業も進めています。
その中でも大分の農家で20年以上、農泊をされている方との出会いがあったそうです。宿泊者の半分は外国から、受け入れ国は10カ国以上。その方が世界中の人の価値観や文化に詳しく、正にグローバル人材。地域住民が外国からの来訪者をもてなしながら、自然と文化の交換をしているシーンに感動。民泊を通して、外国とその地域が深い交流と信頼関係を構築する様から、加藤さんはシェアリングエコノミーの本質的な価値を示唆します。
「シェアリングエコノミーは稼げるからとか、安いから価値があるのではなく、人と人の交流によって信頼関係が醸成されていく中で新しい経済が生まれていくところに、本質的な面白さがあるんじゃないか、と思っています。個人的には、シェアリングエコノミーとは、共有経済ではなく、共助経済だと考えるようになりました。」
地域社会の持続可能な生き方が世界的課題の糸口になり
新たな国際協同組合的活動になっていく
最近は賀川豊彦(戦前日本の労働運動、農民運動、生活協同組合運動において、重要な役割を担った人物で、1954~56年にノーベル平和賞の最終候補者に選出)の思想との出会いをきっかけに協同組合型経済に注目。彼が提唱する循環型経済と友愛経済に、これまで考えてきた「人が経済価値・社会価値・文化価値をバランスよく構築できる地域」に対するひとつの答えをみつけた気がしたと言います。
さらに賀川豊彦の精神性や文化について学ぶ中で、自分の生きている社会が、持続可能なアクションにつながっているのか、疑問を持つようになったそうです。そこで日本の地域が持つ持続可能な精神性・生活文化を海外の人に体験してもらう、「サステイナブルツーリズム」事業の開発に力を入れ始めました。
例えばタイやバリでは、自然と共生しながら古くからのやり方で暮らす文化を政府が支援し、持続可能な暮らしを視察するために世界中から人が集まります。
これから世界の人口は増え、旅行者も増えます。そして世界の社会課題は複雑化・多様化していく。一方で日本の人口は減る。しかし地域には資産や伝統文化・農業に対する知識が残る。それが世界的な課題解決の糸口になるのではないか。日本のありのままの暮らしを世界の人々とシェアすることで、新たな交流が生まれ、地域の文化資本や社会関係資本が構築され、経済資本の構築にもつながっていく。共助の精神を前提としたこの構想が実現すれば「新たな国際協同組合的な活動」になっていくのではないか、と加藤さんはまとめました。
「シェアリングエコノミー」と「協同組合型経済」に共通する
地域の課題解決への可能性
後半は協同組合型経済の推進に取り組む越境リーダー、本木さんと加藤さんとで「シェアリングエコノミー」と「協同組合型経済」に共通する地域の課題解決について対談を行いました。
(本木さん)加藤さんの原体験的としてシェアリングエコノミーを協同組合に結びつけるきっかけが何かあったのでしょうか?
(加藤さん)これまでの取り組みの中で地域に本当に仕事がない現実を目にして「地域の方々の今後の雇用や働き方はどうなるんだろう」と思っていたところ、シェアリングエコノミーを活用して地域に新しい働き方を創りながら、助け合って課題解決して暮らせる仕組みをつくれたら素敵だな、と思い始めました。次第に「そうだ、日本には協同組合がすでに存在するじゃないか!」というところにたどり着きました。
(本木さん)海外に日本の協同組合という仕組みを持ち込むことで、環境と共存しながら世界の課題解決につながるのに、ほとんどの日本人が世界の現状を知らないと思う。海外の人が学んで持ち帰れるような形にできないかなと考えています。
(加藤さん)歴史をみると、賀川さんの思想は世界に進出しているので、今後日本の協同組合が世界の各地で適用されていく可能性は大いにあると思います。さらに、課題先進国の日本でうまれる社会システムは、今後の世界で参考になるソーシャルイノベーションになるかもしれないとは予感しています。
日本の一斉新卒採用のシステムをインドネシアとタイに輸出する事業をやったのですが、大学で就職支援講座や合同就職面接会を行ったら現地の人にものすごく喜ばれました。大学を出ても仕事の探し方がわからない人がたくさんいる。しかし国としては経済成長をしているので求人は社会にたくさん出ている。だから日本の採用システムをいれたら見事にうまくいったんです。新卒採用という一つの仕組み/文化に限らず、日本の社会システムが違う国の課題に時代やフェーズを超えて適用できるものがあると思います。協同組合の思想も賀川さんが100年ぐらい前に考え、現代に適用できることから螺旋階段のように変化しながら広がっていく可能性が高い気がします。
(参加者)お話を聞いていて、世界をすごく意識されていることが気になって、隠れた日本の価値を掘り起こしていくという視点とは別に、単純に数を考えた時に世界全体を視野に入れないと成り立たないと感じました。日本だけでのシェアでは足りないということでしょうか?
(加藤さん)世界まで範囲を広げた方は助けられる/助ける可能性は広がっていきますよね。ただ、僕の関心は純粋に「日本の田舎をもっと海外の人に見せ、深い対話をさせてみたい」という気持ちが強いです。
(参加者)参画されている数が多ければ多いほど活性化していくなかで、まだまだ数が少ないと思います。これから一般の人まで浸透させるのに何が必要でしょうか?
(加藤さん)Airbnbは誰も先導していないのにホストコミュニティが草の根的に冒頭し始め、希望があると思います。コミュニティは、本当に「楽しい・嬉しい・悲しい・さみしい」などの感情自体が交換されるところにうまれると考えています。「シェアしたい、シェアされたい、誰かとつながりたい、そしてそれが本質的に重要だ」というクロマニヨン人的なところまで人間が戻るような世界になるとシェアリングエコノミーも活発化していくと思います。ただ駅のホームで酔っ払って倒れている人を無視する人が99.9%と言われるぐらい、現代人は困っている人に感情が働かないという現状があります。なので広げていくには、人々の感情を掘り起こす働きかけも同時に必要だと思います。
筆者後記
加藤さんの話を聞いて、20歳になる前に鹿児島に行ったときのことを思い出しました。鹿児島県の先端、トカラ列島という島群にある「宝島」という小さな離島。そこには警察もなくスーパーもなく、住民が助け合わないと成り立たない社会がありました。自分が持っているものは人にあげ、持っていないものは他人にもらう、そんなシンプルな仕組みに、とても感動しました。あれから5年、この記事を書きながら「宝島にも民泊はあるのだろうか。久しぶりに訪れてみようか」なんて考えています。(TEXT/PHOTOGRAPH:寺井彩)
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